Aさんの努力は少しずつ成果を出し、お母さんは新しい生活を落ち着いて送れるようになっていきました。
しかしAさんは安心した一方で、心の引っ掛かりがあったと言います。
無理やり母を自宅に招き入れたことに罪悪感を覚えていました。
そのため
一、独り暮らしに戻すには心配な要素があるので、見守りができる環境を整える必要がある。
という課題も同時に考えてみることにしたのです。
現在、Aさんの母は軽度の認知症です。
過去に繰り返していた作業などはできますが、新しい情報は覚えられません。
今もまだ独り暮らしができるのだろうか…仮に
独り暮らしをさせるなら、やはり元のアパートが最適なのではないかと
考えていました。
しかし、不安は尽きません。
独り暮らしで、カギをかけて生活できるのか
お金など大事のものを無くしてしまわないか
買い物に行って迷子にならないか
火の始末はできるのか
詐欺にあわないか・・・次から次へと悪い考えがでてきてしまうのでした。
そこでAさんは、母の担当ケアマネジャーに 介護サービス の相談をしてみることにしました。
担当ケアマネジャーは、自宅生活が安定してきたAさんの母の様子に安堵していました。しかし、受けた相談は母が独り暮らしをする場合どうすればいいか?という内容だったので目が白黒…
何故落ち着いた今になって、独り暮らしに戻すのか?と混乱していました。
数分後、Aさんの真面目な態度や相談内容にケアマネジャーは心底関心したそうです。
独り暮らしをする場合のケアマネジャーからの提案は
週3回の訪問介護 買い物・炊事・洗濯などでお母さんができない家事の見極めを行い、カギの管理をAさんとヘルパーで連携して行うのはどうか?
また週1回 訪問看護に入ってもらいバイタル測定、体調管理、服薬管理をしてもらうようにすれば、生活面の不安をヘルパーと連携をとってくれるのではないか。
といったものでした。
さっそくAさんは、お母さんに独り暮らしができることを話します。
Aさんはお母さんの気持ちを優先したいという思いから、お母さんの意に沿うことを
決めていました。
Aさんは、やや強引に同居をすすめたことを謝罪したうえ、お母さんがアパート暮らしに戻ってもいいと話をしたそうです。その際には介護サービスを利用しながら生活をし、アパートには子どもと一緒に遊びに行くと伝えました。
Aさんの話を聞いたお母さんは1日中考え、とても迷っていたと言います。
最終的に、Aさんとの同居を決めたのでした。
後押しになったのは
「私がお墓まで車で送ります」
というAさんの奥さんの言葉でした。
新しい環境での生活で気を使い続けたお母さんは、緊張の糸が切れたように
泣いて喜んでいました。
その姿を見たAさんは、同居をすることを決断してくれたお母さん、そのきっかけをくれた奥さんにとても感謝したと言います。
およそ1年間を動いて悩み続けたAさんは、私にこんな話をしてくれました。
「認知症と診断され、母は徐々にできないことが増えていくかもしれません。忘れていくことが増えていくかもしれません。
でも、母らしく生活できないことは辛いのだと思い知らされました。
自分が良かれと思っていても、母にとっては不安で苦痛だった。私はその現実を受け入れることができないでいましたが、アドバイスをくださった方や妻に諭され、ようやく理解できたという感じです。
最近の母は、まだ家族に気を使っていますが、前よりも落ち着いて生活ができていると思います。
月1回の通院には介護タクシーを使って、来週にはお試しでデイサービスに行くことが決まりました。認知症という病名はとてもネガティブになりましたし、私自身、悪い情報ばかりを集めていたと思います。でもそれは母にとって関係のないことで、認知症だから母がダメなわけじゃありません。これから先のことは私も不安ですが、母がしたいことを少しでも続けられるように、家族で支えていきます。」
長くなったかもしれませんが、以上がAさんのお話でした。
大変なことや不安も大きいですが、大切なことを教えてくれたと思います。